2007年08月03日

「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」

溜まっている読了済み感想待ちの本が10冊ほどあります。
けど、それを飛び越して感想を書いておかないといけない本が現れてしまいました。

武田邦彦著「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」。1943年生まれ、名古屋大の教授を経て、現在は中部大学総合工学研究所教授。著者本人が運営するホームページもあります。出版は洋泉社、初版は今年3月。

内容は、ペットボトルリサイクルの非効率(というか逆ざや)についてや、ダイオキシン・地球温暖化の大げさな報道について、具体的な数値や新聞資料を用いて詳細な分析と、それに対する批判をしています。

ペットボトルリサイクル(1章)はリサイクルしない場合より、トータルコストで資源(石油)を7倍使い、ゴミが7倍出るので意味がない。しかも、ペットボトル製造業者と流通業者からリサイクル料として集めた金と税金が、補助金として自治体とリサイクル業者に流れている。さらに、国は自治体はいかにもリサイクルがうまく行っているかのように見せるため、データを意図的にねじ曲げて数値やグラフを発表している。
このようなリサイクルには意味がなく即刻止めるべきだ、と著者は結論し、ペットボトルはそのまま燃えるゴミに出した方が、資源的にも資金的にもゴミ焼却場にとっても有益と説きます。

ダイオキシン騒ぎ(2章)については、専門家の間では毒性が弱いのは周知の事実だった。しかし、ある新聞の「故意の誤報」が行われたことによって、非常に毒性の強い物質だとされてしまった。そのために、テレビ朝日の所沢野菜汚染報道が起こったり、古い焼却炉ではダイオキシンが発生しやすいとして全国各地のゴミ焼却施設の更新が無駄に行われたとしています。
これらの費用や被害は、10年間で数千億円にのぼっているとのこと。

地球温暖化騒ぎ(3章)も同様で、朝日新聞が1984年1月1日に温暖化シミュレーションの結果を「海面上昇で山間へ遷都計画」と銘打って一面に載せたことから、一気に注目を集めるようになったとのこと。
専門家の間では温暖化の要因のうち太陽からのエネルギーが一番高く、また5度程度の平均気温上昇によって極地の氷が溶けても海水面が上昇する事はないことが知られているが、ダイオキシンの場合と同様、報道の前に科学が敗れてしまった。
京都議定書では地球温暖化の要因のうち二酸化炭素について、1990年の排出量を基準に先進国の排出量を6%削減するという目標を立てている。しかし、議定書の計画通りになったとしても地球環境への寄与度は1%にも満たない。

こういったことをおそらくマスコミは知りつつも、故意に報道している(これを「故意の誤報」と筆者は定義しています)。それは環境問題が利権を作り、金を生み出すからだと結論しています。

4章と5章では、様々な例を引いて環境問題がどんな利権を生んだか、人々の生活にどんな変化をもたらしたか述べています。
そして、環境問題を根本的に解決するなら国全体で石油エネルギー脱却を目指すべきだと結論しています。つまり、古き良き時代への回帰。つつましくも豊かに暮らしていた頃に戻ろう、ということです。


さて、感想を一言でいえば、詰めが甘すぎで説得力を自ら低下させている本です。

ペットボトルリサイクルの話は、細かい数値データやグラフが出ていて説得力があります。ダイオキシンについても温暖化についても、マスコミ情報しか知らない人にとっては目から鱗の情報満載でしょう。
森林が二酸化炭素減少にほとんど寄与しないことや、30年ほど前はダイオキシン入りの農薬が全国で使われていてそれによる被害者がいないこと、タバコから出るダイオキシンが被害者を出していないこと、この40年間南極の平均気温はほとんど変わっていないことなど、よくよく考えればなるほどと思う事を再確認させてくれますし、一般人が普段触れる事のないデータも多いです。
マスコミの報道姿勢に対する批判には全面的に賛成ですし(政治報道についても最近酷いですから)、マスコミ報道と利権の構図も興味深いです。環境問題が取り上げられ始めた時代を考えると、ゼネコン利権の代替として用意されたのが環境利権なのかなと思ったりもします。
そして、朝日グループこそが環境ゴロだと確信しました(笑)。

しかし、全体的な傾向として、データの分析段階から結論に至るまでの話の持って行き方に主観が入り込みすぎていて、イマイチ信用ならない印象を与えています。また、著者の身近すぎる例や思いこみで書いている文章がちらちらと散見され、おまけに用語が統一されていなかったりする箇所や、環境問題にあまり関係ないところで完全に誤解している箇所も多く、正直言って教授職にある人の文章だとは思えません。
特に読み進めるに従って、つまり4章と5章でそういった傾向が強くなるので、さらに説得力が失せてしまっていて、もしかしたらなにがしかの意図があって読者を誘導しようとしてるんじゃなかろうかとも感じます。
もしかしたら、環境問題に無知な人向けとしてそういった話をちりばめようという意図、あるいは論文のような厳密性を嫌ったのかも知れませんが、ある程度環境問題について知っている人間にとっては完全に逆効果です。

データの提示の仕方はまあまあ良いと思うのですが、分析と結論の部分で疎かになっては、データ自体まで信憑性が問われてしまうという悪い例(ある意味良い例?)になってしまっています。
この手の本では、もっと客観性と厳密さを大切にするべきでしょう。それと誤りの箇所のあまり多さに、出版前のチェックはどうなっていたのかと問い詰めたい気分。
この辺りに詰めの甘さを感じた次第です。

そして結論について。
これはとてもお話になりません。大体、自分で「GDPが下がると食糧自給率も下がってしまう」と、この本の中で述べているんですよ? それなのに国全体でエネルギー消費を減らして(生産性を下げて)、昔のように生きていきましょう! だなんて言われても、どうすればいいやら。完全に論理が破綻しています。もちろん、江戸時代くらいの人口に半減すればそれも可能でしょうが、日本全体でゆるやかに滅べとでもいうんでしょうか?
そして石油脱却を謳いながら、原子力エネルギーに関する記述がまったくといっていいほど無いのはどういうことなのか。著者自身の肩書きには「内閣府原子力安全委員会専門委員」があるというのに。
現在の人類の技術レベルで環境問題を考えれば、必ず原子力エネルギーに行き着くはずなのですが。著者のイデオロギー的な面から敢えて触れなかったのか、それとも出版社側の事情等などがあったのかと邪推してしまいます。
意地悪な言い方をすれば、これこそが「故意の誤報」でしょう。


100点満点で採点するなら15点。これがこの本に与える評価です。
今まで買った本で一番後悔している「買ってはいけない(Wikipedia)」(週間金曜日刊)の次に後悔しています。あの本もデータ自体そこそこ正しいところもありましたが、科学的な根拠は完全に素人レベルで、おまけにまったく根拠のない批判すら行っていました。
環境問題として正しい事と環境問題とは関係なく間違っている事を混在させているため、残念ながらそれに似た雰囲気をこの本からも感じてしまいます。
そしてこの本が、25万部も売れているという事に危機感を覚えます。せめて読んだ人が丸ごと鵜呑みにしない事を祈るのみ。

環境問題に興味が出てきたが、どこから調べればいいかわからない人。また「リサイクルは正義!」と信じ込んでいる人の目を覚まさせる場合のみ、この本が有用になるかもしれません。あまりお薦めはできませんが。

【余談】
もし本格的に環境問題について知りたいのなら、「環境危機をあおってはいけない」と「環境リスク学」を読む事をお薦めします。こちらは、客観的なデータ分析・結論と主観的な文章が完全に分けられていますし、一次データへのポインタとなる出典の明示がキチンとなされているため、自分で裏を取る事もできるようになっています。
posted by plop at 23:40| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ども。

書評の所に下げるのも悪いかなとも思いますが
環境問題についてのwebページって事で。
#まぁ、御存知の向きだとは思うが

http://www.yasuienv.net/
「市民のための環境学ガイド 時事編」
自分はここの文章が平明で好きですね。

「買ってはいけない」、買ってたのか。
或る意味読んでみたいな。今度貸して。

どーでもいいけど、トラックバックスパム、ウザいね。
Posted by settler at 2007年08月07日 13:00
一週間もほったらかしで申し訳ない。

そこのサイトはむかーしむかし行ったことがあります。
文章は読みやすいけど、会話文形式で各個人の個性がない
せいで逆に読みづらいという印象があったり。

「買ってはいけない」は、もうどこに行ったかわかりませんw
弟に貸したような覚えがあるんだけど……

トラックバックスパムはちまちま消したり、拒否URLを
設定したりするんだけどね。
一ヶ月に一度はでてきまふ。
Posted by plop(管理者) at 2007年08月14日 20:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。