2007年02月28日

「環境リスク学」

さて、更に感想文を書いてしまおうということで、今回は「環境リスク学」。著者は中西準子さん。環境リスク分析という一般人にはあまり馴染みのない分野で長年活躍されてきた方です。
この本は、横浜国立大学を定年退職する際に行った最終講演をまとめた第1部と、近頃話題になった環境系の話題(ダイオキシン、環境ホルモン、BSEなど)についてまとめた第2部とで構成されています。

中西準子さんは、満鉄調査部に勤めていて支那の戦力調査をした父親の影響を受けてか、とにかくデータ重視・分析重視の姿勢を貫いています。依頼者や役所の都合のいい調査結果を出すなんて事は皆無。そのおかげで東大で教授をしていた時には村八分状態だったそうな。
第1部では、そんな不遇の頃から、とある下水道処理施設の性能不備を示すデータと分析結果が朝日新聞に掲載されてから徐々に成果発表できる場が増え、その後朝日新聞から学術奨励金を貰うようになってから公的な研究費がつくようになって研究が軌道に乗り始めたあたりの苦労話を交えながら、様々な環境リスク分析について語っています。

例えば下水処理のリスクについて。1970年代は下水処理と言えば、大型処理施設を作ってそこで一括処理をした方がいい(特にお役所的には大型公共工事ができるので)という風潮が強かったのですが、中西さんは自分と研究室の学生数人とで集めたデータと分析結果をもとに、個人下水道、いわゆる戸別浄化槽で一次処理を行い、その後比較的小さめの公共処理施設を通して放水する方が環境リスクが低いという主張を行いました。
その結果は、現在各自治体で浄化槽に補助金がついていることからもわかる通りでございます。

そしてダイオキシンのリスクについて。1990年代後半に、ゴミ焼却場問題なんてものがマスコミに良く取り上げられていて、最新の大型ゴミ焼却場を作るべき、なんて論調がまかり通っていました。が、これにも中西さんは異論を述べています。
曰く、ダイオキシンは規制がなかった1970年代の農薬とPCB由来のものがほとんどで、現在土中や人体中(母乳)から検出されるダイオキシンはこの頃に作られたものであると。しかも、年々検出量は減っています。そのため、ゴミ焼却場を更新しても効果はほとんど期待できず、費用対効果の面から考えるとほぼ無意味であると論じます。

という記事が朝日新聞に掲載されたところ、市民団体等から抗議文や脅迫状が届いたそうで。
朝日新聞としては、昔々奨励金をやった相手がコントロールできなくなって苦虫を噛み潰していたのではないかと邪推してしまったりします(笑)。
利害関係者の事情なんぞまったく顧みないその姿勢に、これこそ学者のあるべき姿だなと思ったりもしました。

その他には、米国と欧州ではそれぞれ方法は違うもののリスクとその対策の費用対効果を計算できる方法が確立されていて(しかし、それがベストとはしていない)、企業、公共機関などで日常的に使われていること。日本もそういった方法論を確立する必要があること。


第2部では、各種環境系で話題になったものの分析が続きます。
まずダイオキシン。ここは第1部とやや内容がかぶるので割愛。

環境ホルモンと呼ばれるものについては、環境省が優先的に調べるべきとした19物質について2004年に調査結果が発表されて、全ての物質で「所見なし」。つまり影響なしとのこと。人間から排泄されて下水に流れるホルモン物質の方が影響あるのでは、という有様だったそうです。
環境ホルモンについては、「疑わしきは罰する」という姿勢で予防的に規制した方がいいという論がありますが、これにも中西さんは異論を唱えています。曰く、水俣病の時は原因されるものが、伝染病→マンガン→セレン→タリウムと次々に変わり、ようやく水銀に辿り着いたのであって、その場その場で原因と思われる物質を規制対象にしていたら、水銀が原因と突き止めるまでに更に時間がかかり被害が広がっていたのではないかというわけです。

BSEの全頭検査については、費用対効果からみて「無駄」であるとしています。
例え全頭検査をしたとしても、人間が検査を行う以上見落とし率はゼロにできない。となると莫大な費用をかけるよりは、ある程度のリスク許容度を設定してそのハードルをクリアする条件を設定した方が、国民全体にとってより負担が少なくリスクを減らせると。
計算上、危険部位を取り除き、年40万頭(1%)の検査を行えば、そこそこの費用でリスクをある程度の範囲に抑えることができるとしています。


ダイオキシンにしろ環境ホルモンにしろBSEにしろ、とにかくマスコミが大騒ぎして火を付けて、それを見聞きして「大変だ大変だ」と延焼させている国民、という図式がピッタリ当てはまってしまってイヤになります。
もうちょっと冷静になろうよと。もうちょっと科学的知識を持とうよと。自分としては、情報さえ提供して貰えばあとは自分で判断するってスタンスなので。
例えば最近の不二家の問題なら別に製造停止しなくたって、自分なら生菓子さえ買わなきゃオッケー、焼き菓子なら問題なしと判断しますし。いや、昔から不二家の生菓子は美味しくないから買わないですが(笑)。

あ、そういえば最後に電磁波の問題もちょびっと書いてありました。
科学技術振興調整費(7億2000万円)を使って1999年から3年間に渡って、電磁波の子供に対する影響の研究がされたのですが、この成果評価で「総合評価C」だったそうです(笑)。科学的価値は低いと。

これもマスコミに取り上げられた後、携帯電話の基地局建設に地元住民が反対したり、高圧電線の周囲で癌発生率が……なんてヒステリックでミステリーちっくな反応がよく聞かれますね。
個人的には「馬鹿じゃねえの?」としか思わないのですが、やはりマスコミ、特にテレビで取り上げられると無条件無批判に信じてしまう人が多いという証左なのでしょう。だからこそ「あるある」問題が起こったわけですし。

というわけで、本書を読みますと自分や家族の身の回りにあるリスクに対する考え方が変わります。交通事故に遭って死亡する確率と変異型クロイツフェルト・ヤコブ病にかかって死亡する確率を考える機会なんてなかなかありませんから。「これは危険だからやらない」「安全だから絶対大丈夫」というAll or Nothingなデジタル的思考で物事を考えず、「これはかなりリスクがあるけど、これだけの見返りがある(だからやるorやらない)」「安全だと思うけど、こういうリスクもある(だからやるorやらない)」といったリスクとリターンの比率を元にした判断をする時の参考になります。

そして普段、いかにマスコミが馬鹿らしい情報を垂れ流しているか。そしてそれを疑いもせずに信じてしまうことで、どれだけ(間接的に)負担が増えるばかりでなく、逆にリスクを高くしてしまう結果になりかねないかが判ります。
「家族がマスコミ言うことを信じすぎて困る」
「〜〜が危険だって聞いたけど、ホントのところは?」

という人にお薦めできる1冊です。
ただ、データ重視の筆者らしく、前提となる条件の説明やデータやグラフがかなり多いです。こういった記述をかったるいと思ってしまう人にとっては読み進めるのが苦痛かもしれません。

個人的な買ってしまったことを今でも後悔している「買ってはいけない」という本がありますが、これとは真逆のスタンスで書かれています。ので、「買ってはいけない」を買ってしまった人にもある意味お薦めです。

ちなみに温暖化などの世界規模のリスクに関しては「環境危機をあおってはいけない」をお薦めします。WWFやWHOといった国際機関が、いかにデータを恣意的に見せて環境危機を煽っているかが非常によく判る一冊です。
posted by plop at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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