2007年02月24日

「オシムの言葉」

うわ〜、またも読書感想文を3ヶ月もほったらかしに…
というわけで今回は、「オシムの言葉」です。著者は木村元彦さん。サッカージャーナリストとして主にドラガン・ストイコビッチ、ユーゴスラビアに関する著書を多く世に出している方です。ユーゴスラビア出身で、崩壊直前のユーゴスラビア代表監督を務めたイビツァ・オシムを語るには最高ではないかと。
この本を読もうと思ったのは、もちろんジェフ千葉のサッカーが面白いから。人もボールもどんどん動くサッカーを植え付けた監督というのはどんな考え方の持ち主なのか、より深く知りたかったからです。
ちなみに読んだのは一昨年12月。うあぁぁ、丸1年以上もほったらかしてたことになるのか……

内容は、オシムがジェフ千葉(来日当時は市原)の監督に就任した当時の、選手達の監督への印象・感想から始まります。
冬季キャンプからとにかく走るに走らせ、それでいて一つ一つの練習やプレーに対して考え続けることを求める監督。今まで出会ったことのないタイプの監督に対して選手達の不満はかなり高まります。しかし、いざシーズンが始まってみると、今まで苦戦した相手に楽勝し、そしておよそ勝てそうになかった相手に善戦以上の内容の試合をすることができるようになっていました。そして、オシム監督が試合前に「こうすれば勝てる」とかハーフタイムに「このままでは負ける」と口にすると、本当にその通りの結果になる。ここに至って選手達に「この監督についていけば間違いない」という気持ちが生まれます。ここまでが2003年シーズン序盤の話。

次にオシム監督のバックグラウンド。
頭脳明晰でプロチームに入る際や進学時に数学者や医師への道もあったけれども、サッカーの道を選んだこと。現役時代のプレイスタイルは、今からは考えつかないようなボールコネコネのドリブラーだったとのこと。12年間の選手生活の中で一度もイエローカードを受けなかったこと。そして1978年に引退し、地元に戻って指導者として初めてチームを率いた時の話。
オシム監督のマルチな才能に驚くと共に、その精神力や洞察力、言葉遣いの巧みさを考えると納得することしきりです。

順調に指導者としてキャリアを積み、1986年にユーゴスラビア代表監督に就任。多民族国家のユーゴスラビアでは、代表選手を民族によって「輪番制」で選抜する暗黙の了解があったけれども、それを完全に無視。当然、選ばれなかった民族系のマスコミには叩かれるがそれを全く意に介さず。
迎えた1990年イタリアW杯では、グループリーグの初戦にマスコミのいう通りの先発メンバーを選んで負けることで批判を完全にシャットアウトした逸話。そしてグループリーグの残り2試合を勝って決勝トーナメントに進み、1回戦でスペインを破ってベスト8入り。次戦アルゼンチンとの試合では前半のうちに退場で一人少なくなったにもかかわらず、絶妙の采配で延長後半が終わるまでアルゼンチンに得点を許さず、PK戦に持ち込みますが惜しくも敗戦。
ユーゴスラビアに崩壊の足音が忍び寄ってくる中、オシム監督はこれまでのキャリアの中で最高の成績を得ました。

1990年以降、ユーゴスラビアは崩壊の一途を辿り、サッカーにも重大な影響を及ぼしていきます。6つの共和国がそれぞれ民族自決の名の下に独立を模索し、サッカー協会もそれによって分裂しようとする動きが活発になり、それが代表チームの足を引っ張ります。更に各共和国のマスコミが憎しみを煽り立てることで、代表入りを断念する選手も現れます。
そして内戦の勃発。
内戦が激しさを増していく状況でもオシム監督は代表チームをまとめ上げ、Euro1992予選を勝ち上がり本戦へ駒を進めます。

そして1992年4月。オシム監督の故郷で家族が住むサラエボが戦場になります。連邦軍に包囲されたサラエボは以後2年半に渡って外界から隔離され、オシム監督の奥さんと娘さんがそのサラエボに取り残されてしまいました。5月には電話網も破壊され家族との連絡すらつかなくなります。
W杯後、オシム監督はクラブ(パルチザン)と代表監督を兼任していましたが、5月21日ユーゴカップ決勝でパルチザンを優勝に導き、年内の日程を全て終了したことで、クラブと代表監督を同時に。
選手を想い、家族を想い、サッカーに真剣に取り組んできた希代の名将と謳われた監督は、しかし内戦の激化により自国マスコミとサッカー協会内の批判に晒され、そして家族とも切り離され、とうとうEuro1992出場を目前にして代表監督の座を退いたのです。
その後、ユーゴスラビア代表は内戦の制裁として直前にEuro1992の出場権を剥奪され、選手達はEuro1992に出場することなく帰国。以後、国際舞台からその名を消すことになりました。

代表監督を辞した後、オシムはギリシアのパナシナイコスへ。アマチュア無線のリレー中継でサラエボと連絡が取れるからでした。
とりあえず家族の安否は確認でき、チームにもギリシアカップをもたらしたものの、オーナーが勝手に選手を取ってきたり、通訳には勝手に情報を流されたりで1シーズンで退団。

ビッグクラブから引く手あまたの中、選んだのはオーストリアのシュトルム・グラーツ(最近、宮本と三都主が移籍しましたね)。自分がビッグクラブ向きの監督ではないと自覚していて、サラエボからあまり離れていない土地で、さらに旧ユーゴのどこにも肩入れしたくないが故の選択だったようです。
そして、ロングボールを蹴るだけのサッカーをしていたグラーツを1シーズンでリーグ2位に導きます。
一方サラエボから奥さんと娘さんが国連軍のヘリに乗って脱出。2年半振りに夫婦は顔を合わせます。狙撃手が街の至る所を射程に入れ、ある日突然隣人が狙撃されるという環境にいた妻と、家族の安否確認がままならないままサッカーを続けなければならなかった夫との再会は如何ばかりのものだったのか……とても想像ができません。

そしてオシム監督はグラーツで8年間指揮をとり、リーグ優勝2回という成績をおさめました。ワンマンオーナーとの確執もあったのか、8年という長い期間オーストリアにいたために新しい環境を求めたのかははっきりわかりませんが、ここでオシム監督は移籍を決意します。
その売り込みFAXを受け取った当時のジェフ市原のGM祖母井氏は、それまでの監督候補をすべて白紙にして連日電話攻勢。そして祖母井氏は現地に赴いてオシム監督を口説き落とすことに成功しました。その時には、独自ルートで集めたジェフの選手全員の詳細な情報がすでにオシム監督の手元にあったそうです。

これでバックグラウンドは終了。…って長いな(笑)
とはいえ、ここがある意味本書の肝なんで仕方ないのですが。
とにかくオシム監督のサッカーにかける情熱、そして家族に対する愛をひしひしと感じます。頭脳明晰さはいうに及ばず、選手の心理を読み、望む方向に導いていく心理マネジメントの巧みさには感嘆する以外にありません。
自分が今の日本代表について非常に楽観的なのは、こういったオシム監督のパーソナリティを知ることができたから。任せておけば必ず代表チームは強くなると確信を持って言えます。
そしてマスコミと権力に対する不信感。祖国を分断するよう仕向け、愛する家族と長い間別離させられた経験はこの先拭いようもないでしょう。日本のマスコミに対しても厳しい受け答えをしていますが、こういった背景があればそれも致し方ないかと思います。

バックグラウンドが終わると、「語録の助産婦」と題して通訳の間瀬氏を通じたオシム監督が語られます。
間瀬氏はオシム監督と最も長く同じ時間を過ごしているといってもいいのではないかと思います。そのエピソードも面白く、それでいて考えさせられるものが多くあります。例えば、練習の意図が選手に伝わらなければ通訳が怒られるとか、記者の馬鹿な質問を訳すと怒られるとか、トランプのラミーをやってるときにミスすると叩かれるとか。あれ?怒ってることばっかりだ(笑)。
もちろんそれだけではなく、オシム監督がいかにチームをそして日本のサッカーの向上について日々頭を巡らせているかが判るエピソードもあります。チームが中位にいることに慣れていて、上位にいると安心してしまうが市原という街がそれを許容してしまっているのも問題という発言は、チームは違えど応援するチームを持っている身としては胸に刺さりますね。

最後は2005年のシーズンを通してのオシム監督が描かれています。
オフの間に主力をジュビロ磐田に獲られた後の、対ジュビロ磐田戦。そこには就任して2年を経たチームが、いかにオシム監督の理想に向かっているかが試合の経過を通じて丁寧に書かれています。現在日本代表選手の阿部や巻はもちろん、羽生や坂本や佐藤らのインタビューも交えながらこの一戦を追体験できるのはサッカー指導者の方にとってかなり有益なのでないかとも思います。

オシム監督への突っ込んだインタビューと2005年シーズン中のエピソードは、サッカーをある程度知る人にとって視界を広げてくれるような効果があると思います。
リスクを冒すというサッカー哲学、それを実現するため選手にどんな心構えをさせているのか、臨機応変に対応するためにはどのような備えをしておくべきなのか、選手のモチベーションコントロールを考えた発言と全員に公平に接する距離感、そして自身が日々進歩しなければ取り残されるという危機感。超一流の視点を垣間見ることができました。

エピローグは2005年ナビスコ杯決勝。G大阪戦。前後半、延長戦を終えて0−0。勝敗はPK戦に。
オシム監督はキッカーを指名した後、ロッカールームへ向かいました。監督の仕事はもうない、とイタリアW杯アルゼンチン戦と同じ行動を取ったのです。
しかしジェフはPK戦を見事に制しました。珍しくネガティブな思考をしていた監督の予想を裏切って。
再びロッカールームから姿を現したオシム監督は、胴上げを拒否。ここでチームの目標を達したわけじゃないという意思表示だったのでしょう。実際にテレビでこの場面を見ていましたが、嬉しさの中にも厳しさを湛えた表情と、それを囲む選手達の笑顔が印象に残っています。「やっぱり胴上げはさせてくれないか」って感じの笑顔が。
試合後、G大阪のシュートを止めまくり、PK戦でも1本止めてMVPに選ばれたGK立石がインタビューで「賞金は子供のミルク代に」と答えるとオシム監督の表情が崩れた、というエピソードには本当に選手とか家族とかが好きな人なんだなと、そして筆者の「それこそが指導の推進力になっている」という言葉になるほどとうなずきました。


え〜っと、なんというか感想というよりは雑なダイジェストになってしまったような感じがしますが(汗)。

とにかく、普段サッカーをやっているor見ている人は必読の書でしょう。超一流で、現日本代表監督の考え方やメンタリティ、指導法の一端を垣間見ることができるのですから。1,680円という価格は安いくらいです。
実際、この本を読んでからピッチ上で行われている「結果」から、その「過程」でどんなことが行われてきたのか考えるようになりました。そうすると、同じチームの試合を見る度にどういう改善や改悪があったのか予想することができ、更にその先をある程度予想できるようになります。特にジーコ監督時の日本代表は、改悪方法を予想できたある意味いい例ですね。期待に違わず1分2敗でしたし(笑)。

最後に、途中でも書きましたが、オシム監督に代表チームを任せておけば間違いないと考えます。必ず次のW杯で決勝トーナメントに導いてくれるでしょう。もちろん4年間監督を続けてくれればの話ですがね。
posted by plop at 02:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/34532358

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。