2006年05月27日

外交を喧嘩にした男

溜まっている本の感想を書いてしまおう第4弾。
外交を喧嘩にした男 小泉外交2000日の真実」。読売新聞で2004年11月18日から2005年6月24日まで連載された「政治の現場 小泉外交」に、追加取材して増補したものです。
出版は2006年1月。読み終わったのは2月に入ってからだった覚えがあります。

内容は、小泉政権になってから行った、北朝鮮、アメリカ、中国に対するの外交の舞台裏を、なるべく時系列に沿った形でドキュメンタリータッチで描いています。

第一部 日朝外交 極秘交渉の深層 では、北朝鮮から3つの別個のルートを通じて拉致に関する話が持ちかけられたことや、小泉総理の訪朝前に徹底的な情報統制を行って訪朝を成功させたことなど、表面的に報道された内容からは決して読みとることのできない非常に濃い駆け引きがあったことがわかります。
政府(首相官邸)と外務省の考え方の違い、そして北朝鮮側も決して一枚岩ではなくいくつかの勢力がそれぞれの立場で動き、状況を更に複雑にしていたことも読みとれます。

第二部 日米外交 戦後最良のとき は、小泉首相とブッシュ大統領の個人的な信頼関係をベースとした日米関係について書かれています。
9.11後の日本の対応、特にイージス艦・補給艦の派遣とイラン派兵という戦後日本が避けていた武力協力を、紆余曲折がありながらも成功させた裏にはブッシュ大統領やこれまで培ってきた親日政治家との信頼関係があったことが伺えます。
BSE問題や普天間基地移転問題でも、信頼関係をベースとしてそれぞれ解決が図られています。逆に言うと、小泉総理が退陣した後はアメリカとの関係がやや冷えるというのはもはや既定路線なのだと思い知らされます。

第三部 日中外交 大いなる蹉跌 では、小泉総理が誕生した2001年頃にはそれほど問題の無かった日中関係が、どんなやりとりをしてその結果として関係が悪化していったのかが非常に克明になっています。
日本でも中国でも「暗黙の了解」が文化として浸透しています。が、外交の舞台でそれをしてしまったため、会談内容が双方で違った解釈をされ、その誤解が小泉総理の靖国神社参拝で一気に弾けて、中国の態度硬化に至ったようです。
それ以降はご存じの通り、サッカーアジアカップでの反日運動、上海での反日暴動などに繋がっていき、小泉総理は靖国参拝を続けています。


まず、読みながら驚いていたのは2点。これほど詳細に外交の舞台裏を書いてあることへの驚きと、まだ小泉総理が首相の座にいるこの時期によく出版できたなという驚きです。
関係当事者に「記事を読んで自分の知らないことがあって驚いた」と言わしめた読売新聞政治部の取材力、そしてなるべく主観を排した客観的な視点での考察は、マスコミの恣意的な報道があふれる中、白眉といって差し支えないでしょう。
そして、自国の外交の裏をこういった形で表に出してしまえば、他国から研究材料とされるのは確実です。それでも出版に際して政府等からの圧力がなかったというのは、いかに日本が自国の外交方針とその手腕に自信を付けたかの現れのように思います。

そして読み終わって感心したのは、小泉総理のブレなさ迷いの無さ、リスクを恐れない大胆さです。正直な感想として、これほどの外交手腕を発揮できる首相はこのさき出てこないんじゃないかとも思います。
麻生外務大臣なんかは面白いですが、安倍官房長官ではちょっとこの域まで達するのは不可能なんじゃないかと。あ、福田さんは論外。
小泉総理は今年9月に退陣してそのまま引退、なんてことを言っていますが、せめて外務大臣か特別外交官として、もうしばらく日本の外交を担ってもらいたいと思ってしまいます。

それにしても、今までの日本外交はあまりにひどく、悲惨といってもいい有様だったんだなと改めて感じ入りました。事ここに及んでも外務省の中で、小泉外交以前の対外戦略(というほど立派じゃないですが…)に固執しているところがあったりしてますが、そういった勢力がなくならないと今後日本外交はいつまでもフラフラと腰の定まらない不安定なものになるでしょう。

それから日本の諜報能力・防諜能力の低さが、判断の誤りを招いている点も気になります(結果が全ていい方に転がったのも小泉外交の特徴(笑))。やはり、早急に日本版CIAの設立とスパイ防止法の制定が必要でしょう。最低この2つがなければ外交が成り立たないほど、世の中には情報があふれすぎています。正確な情報を的確に分析して報告する機関と、そういった価値の高い情報を他国に盗まれないようにするための法整備は必須です。

あ、それと、本書内で韓国がほぼ完全に無視されているのには笑いました。最近5年間の、日本の韓国に対するプライオリティの低さが浮き彫りになっています。

よく外交とは、テーブルの上で殴り合いながらその下では握手をする、とか、テーブルの上で握手をしながらその下で蹴り合う、というような例えをされますが、戦後小泉総理が出てくるまで日本の外交にそういった面はありませんでした。どちらかというと、テーブルの上で握手をし、蹴られれば札束を積むという印象が強くあります。
それを是正して、国際社会で一般的な外交を日本の手に取り戻したのが小泉総理でした。

道筋は小泉総理がつけました。これからはポスト小泉となる次期総理の能力とと、国民全員の意識の高まりの両方によって、日本の外交が国際的に通用するものになるか札束外交に逆戻りするかが決まると言っていいでしょう。
そういう意味では、普段政治や外交に興味がない人にこそ薦める価値がある一冊だと思います。
posted by plop at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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